こんにちは、関西ドローンの伊藤です。今回はドローンにおける物件投下のお話をしようと思います。月に一度、ドローンを使った薬の輸送や支援物資の輸送が各地方新聞で話題になっていますね。それくらい注目されている技術です。

ドローンの物件投下は航空法の許可がいる

まずは基本の「き」のお話です。ドローンで荷物を輸送して、投下する行為は航空法132条の2第6号上で禁止されているため、物件投下をする際は地方航空局や国交省の許可が必要になります。詳しくは下記の国交省のサイトに記載されています。

無人航空機の飛行ルール

物件投下の際、DID地区(人口密集地域)や人・物から30m以内の飛行と同様に全国包括許可(全国どこでも期日なく申請時の条件下なら飛行が可能)も可能ですが、少しハードルは上がります。

また、農薬や水を撒く際も物件投下とみなされます。例外なのは、ドローンを着陸させて設置させる行為。これは投下とならず、設置となりますので、投下の許可申請はいらないという認識が通っています。

今回はJIC2017記事リンク:Japan Innovation Challenge 結果報告 ドローンで山岳救助活用に挑戦して、物件投下が必要とされた状況でどのように物をドローンから安全に運んだかを解きほぐしていきたいと思います。

物件投下はしないに越したことはない

いきなり物件投下そのもに対する否定から入りましたが、これは本当にタイトル通りとなります。物件投下とはドローンから物を落とし、必要とされている場所に届けることを指しますが、これには様々な問題があります。

まず、第一に物を落とすということは多かれ少なかれ落下地点近くの範囲にリスクがあるということです。昨年のJIC2016では救助を必要とされる人を模したマネキンの近くに、救援物資を届ける方法として物件投下が行われていたそうです。

しかし、今年のJIC2017ではレギュレーションが変更され、物件投下そのものがNGとなりました。もし投下した物資が要救助者に当たったりすれば、救助するつもりが二次災害に発展しかねません。

もう一点、投下する物資がいかなる保護状態にあっても、空中から落とすということは中の物資が破損する可能性は常にあります。例えば緩衝材をつけても、それを開ける手間やドローンの積載量(ペイロード)の問題もあります。

リスクを冒して物資を届けたものの、中の注射器や薬が破損して使えない状態になっているなんてたまったもんではありませんね。

最後の一点は、物件投下の精度についてです。これは簡単に想像がつくと思うのですが、空から物を落とすということはかなり精度が不安定です。狙った位置に落とせるくらいの高度から投下できればいいのですが、例えば木が生い茂る山などですと、そう簡単にはいきません。

海難救助などの場合、ある程度要救助者の近くに浮き輪を降ろせれば大丈夫なのですが、陸上における物資の運送の場合、精度が下げれば下がるほど安全のために確保する土地が必要になってきます。

これらのことから、物件投下事態にそもそものリスクがある、ということが前提になってきてしまいます。

物件を吊り下げて降ろすという考え

では一体どうすれば安全に、確実に物件を投下できるのでしょうか?先述のJIC2017では物資の投下が禁止されてしまい、各チームが手法を凝らして挑戦していました。その大枠でみなさんが行っていたのが、ロープや紐で物資を吊り下げ、機体の高度を物資が接地するまで下げる、という手法です。

ただこの場合のリスクを考えなければいけません。物資を離陸時点からそれなりの長いロープで吊り下げて飛ぶということは、ロープ以上の高度まであげるまでロープは弛んでいる状態です。万が一プロペラに巻き込んだり、途中の木などに引っかかったりすれば機体が墜落してしまう恐れがあります。

さらに、吊り下げた状態での飛行は、物資が風邪や慣性で横揺れすればするほど、その揺れは機体に伝わります。横揺れを防ぐ機構をロープに施していればこの問題は解決できますが、JIC2017では離陸後すぐに機体が揺れまくっている場面もありました。

確かにこの手法では、物品を投下する中で発生するリスクは回避できそうですが、飛行中のリスクが高くなります。

JIC2017を踏まえて

JIC2017では、チーム東北JVとして参加した関西ドローンでしたが、物件投下に関しては釣り具で使われているリールと似た構造のウィンチを使用しました。詳細は下記の株式会社東北ドローンさんのプレスリリースより。

ドローンを活用した要救助者へ物資輸送を行う競技にて、3日間連続で課題達成をいたしました。

使用した機材について
ウインチ以外は民生品を利用することを1つの目標としておりました。
高級な機材ではなく、操縦技能、知識が深ければ活用できる機材選定を行いました。

●ドローン
DJI
Matrice 600
MAVIC PRO
●ドローン用ウインチ
釣りの電動リールのノウハウを活用したウインチ
グローブライド株式会社
●救援物資輸送用カラビナ
グローブライド株式会社
●ウインチ昇降信号装置開発協力
合同会社RCラボ

[引用元:株式会社東北ドローンプレスリリース記事 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000026407.html]

現場で実際に見た感触としては、吊り下げよりも安全で、物件投下時のリスクが最小限という素晴らしい成果でした。リールでゆっくりと正確に物品を降ろすことができるので、ドローンは基本的にホバリングさせているだけでいいのです。

さらにドローンに取り付けたカメラと、もう一台別のドローンを監視用にフライトさせ、万全の体制で挑みました。これもリールの糸と投下する物品がしっかりと確認でき、パイロットに正確な指示が出せていました。

今後、ドローンによる物品輸送の需要はどんどん増えていくとは思いますが、こういった現場で使えるウィンチや実際に経験した方々の意見は非常に大切だと思います。